現在、アメリカのオフィス向け商業用不動産ローン(CMBS)市場が深刻な状況に直面しています。延滞率は10.6%に達しており、これは2008年のリーマンショック時とほぼ同じ水準です。こうした延滞の増加は、単なる一時的な不況ではなく、オフィス需要そのものの構造的な変化に起因しています。
今は超長期債が世界的に不人気化し、金利も高止まりしています。トランプ関税が不明確な中、インフレ率の上昇予想も幅が高くなっており、更に長期金利が上昇すれば、延滞率は急上昇することになります。
新型コロナウイルスを契機にテレワークが定着し、多くの企業が従来のオフィススペースを縮小しました。その結果、大都市圏でもオフィスビルの空室率は20%前後と高水準で推移しています。賃料収入が落ち込めば、当然、返済能力も低下します。加えて、金利の高止まりにより借り換えが困難になり、ローンを延滞する事業者が急増しています。
このような不動産ローンは、従来の銀行融資とは異なり、CMBS(商業用不動産担保証券)やCLO(ローン担保証券)として証券化され、世界中の金融市場に販売されています。CMBS市場の規模は2024年末時点で約6700億ドル(約100兆円)あり、そのうち20〜25%、つまり約1300〜1700億ドルがオフィス関連のローンで構成されています。CMBSはローンを束ねてパッケージ化し、信用力の高いAAAから低いBまでのトランシェに分割して投資家に販売されます。
一方、CLOは主に企業向けのレバレッジドローンを担保にした証券化商品ですが、商業用不動産やREIT向けの貸出も一部含まれており、こちらの市場規模は約1.2兆ドル(約190兆円)にのぼります。CLOもトランシェ構造でリスクが分散されており、投資家は信用格付けに応じたリターンを受け取りますが、下位トランシェは延滞が増えればすぐに元本割れに陥ります。
これらの証券を保有しているのは、アメリカ国内の年金基金、保険会社、地方銀行、REIT(不動産投資信託)だけでなく、日本・韓国・ヨーロッパなどの海外機関投資家も含まれます。表面的には金融機関のバランスシートに載っていないため見えにくいですが、実質的には世界中に信用リスクがばらまかれている状態です。
すでにCMBSの低格付けトランシェでは価格が暴落しており、REITや保険会社などは評価損のリスクを抱えています。地方銀行も資産劣化によって自己資本比率が低下すれば、新規貸出に慎重にならざるを得ません。また、CMBS市場でのスプレッド拡大は社債市場やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)にも波及し、信用不安が高まりつつあります。
リーマンショック時との違いは、今回は「住宅」ではなく「オフィス」が中心であり、リスクの担い手が銀行よりもノンバンクや機関投資家、さらには国外にまで広がっている点です。つまり、金融機関の直接破綻というかたちではなく、徐々に資産価格が下がり、投資家のバランスシートを傷つけ、信用収縮をもたらす「見えにくい連鎖」が進行しているのです。
この状況がさらに悪化すれば、REITの分配金減少、CLOの評価損、地方銀行の貸出縮小、年金基金の運用難、海外投資家のドル建て資産離れなど、多方面にわたって金融システム全体を揺さぶる可能性があります。しかもこれらは一気に起こるのではなく、数か月、数四半期かけてじわじわと顕在化していくリスクです。
延滞率10.6%という数字は、単なる一指標ではなく、アメリカの不動産市場が抱える構造的問題の象徴であり、世界の金融市場に広がりかねない不安定さを示しています。表面的には安定を装っている金融市場の下層で、すでに大きな信用不安の火種がくすぶっているのです。今後、格下げや償還不能、デフォルトの連鎖が起きれば、その影響は米国内にとどまらず、世界の投資家心理を冷やし、グローバルな信用収縮を引き起こす可能性があります。
リーマンショックの時もこれらの金融商品がぶち飛びました。それと同じ構図が今進んでいることが非常に気がかりです。では具体的にどの銀行や上場企業が最もリスクの高い状況にあるのか?ショートのチャンスともいえるわけで、理解を深めるべきでしょうね。
まず、商業用不動産ローンへの依存度が非常に高い米地方銀行がいくつかあります。例えば、Live Oak Banking Co.(ティッカー:LOB)は自己資本に対するCREローンの比率が約598%、Dime Community Bank(DCOM)が562%、EagleBank(EGBN)が535%と非常に高い水準にあります。また、Bank OZK(OZK)やFlagstar Bank(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ:NYCB)も500%を超えており、いずれも商業用不動産の延滞拡大による評価損や引当金の増加が、業績を直撃する可能性があります。特に、担保不動産の価値が急落した場合、自己資本比率の低下や貸し出し余力の減少といった二次的な悪影響も無視できません。
次に、CMBSに直接的に関与しているのが、オフィスビル特化型のREITです。SL Green Realty Corp.(SLG)はニューヨーク市中心部の高層オフィスビルに集中投資しており、テナント離れや空室率の上昇の影響を強く受けています。Vornado Realty Trust(VNO)も同様にマンハッタンの商業不動産を多く保有しており、評価損の計上や配当の減額リスクが懸念されます。さらに、Boston Properties(BXP)はボストン、サンフランシスコ、ニューヨークなど複数の大都市圏に高級オフィス物件を展開しており、地域全体のオフィス需要の低下が経営に与える影響は小さくありません。
また、保険会社もCMBSの主要な保有主体であり、MetLife(MET)やPrudential Financial(PRU)などは、商業用不動産ローンを大量に組み込んだポートフォリオを抱えています。金利上昇とともに保有資産の評価損が拡大すれば、保険料の収益性や自己資本比率を圧迫することにつながります。
加えて、First Foundation Bank(FFWM)やColumbia Bank(CLBK)といった中規模の地方銀行も、地域に密着した商業用不動産ローンに依存しており、地元のオフィス市場の悪化が直撃する構図です。特に地方銀行は、資産の多くをCREローンに集中しているケースが多く、他の収益源による分散が効きづらいという点で、リスクが高いとされます。
このように、CMBSやCLO市場の悪化が進行することで、特定の銀行、保険会社、REITなどの企業群が被害を受ける可能性は極めて高いといえます。投資家としては、これらの企業がどの程度不動産関連のリスクにさらされているかを定量的に把握し、今後の財務指標や市場動向に注視していく必要があります。また、延滞率のさらなる上昇や、不動産価格の急落が現実となった場合には、株価の下落だけでなく、信用不安や配当の削減といった広範な影響も視野に入れておくべきです。
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