2017年以降、米ドルの国際的な地位に明らかな変化が生じてきています。かつては世界の中央銀行が外貨準備の主軸として米ドルを圧倒的に保有してきましたが、ここ数年、その構図に揺らぎが生じています。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、2017年時点で約65%を占めていた米ドルの外貨準備におけるシェアは、2024年には約58%まで低下しました。これは、米ドルに代わる通貨や資産への分散が徐々に進んでいることを示しています。
この背景には、アメリカの財政赤字と政府債務の急拡大があります。2017年に約20兆ドルだった米国の連邦政府債務は、2025年には34兆ドルを超える見込みです。金利上昇により利払いコストも急増し、財政の持続可能性に対する懸念が広がっています。さらに、アメリカが対外政策として経済制裁を頻繁に用いるようになったことで、特にロシアやイランなどの制裁対象国、あるいは中国などの経済的対立構造にある国々にとっては、ドルに依存すること自体がリスクとなりつつあります。こうした地政学的要因も、脱ドル化の動きを後押ししています。
こうした流れのなかで、各国の中央銀行が選んだ代替資産のひとつが「金(ゴールド)」です。金は、どの国にも属さず、政治的・信用的リスクから自由な「無国籍通貨」として再評価されており、通貨の安全資産としての性質が見直されています。特に2018年以降、中央銀行による金の購入量は50年ぶりの高水準に達し、2022年には過去最大となる約1,100トン超を買い入れるという歴史的な動きが確認されました。中でも、中国、ロシア、トルコ、インド、カザフスタンといった国々は、金の積極的な保有増加を通じて、自国の外貨準備の分散と安全性確保を図っています。
金を選好する理由は明確です。第一に、金は信用リスクを持たず、他国の政策に依存しないという特徴を持っています。第二に、インフレや通貨下落の際にもその価値を保ちやすく、実物資産としての希少性が支持材料となります。第三に、制裁などのリスクからも独立しており、地政学的な不確実性の中で安定的な価値を提供するためです。
こうした中で、中央銀行のみならず、民間の投資家の間でも法定通貨に依存し過ぎることのリスクが強く意識されるようになってきました。世界的に各国政府が大規模な財政出動を続け、中央銀行もそれを支える形で量的緩和を行った結果、法定通貨そのものの信認が徐々に希薄化しているという懸念があります。実質購買力の低下やインフレ率の上昇により、法定通貨ベースの資産のみで構成されたポートフォリオでは資産価値を維持することが難しくなる可能性があります。
このような状況を踏まえ、分散投資の必要性が再認識されています。特に金は、ETF(上場投資信託)や現物保有、さらには金鉱株などを通じて投資する手段が確立されており、中長期的な資産保全の手段として注目されています。加えて、インフラ投資や不動産、商品(コモディティ)などの実物資産へのシフトも進んでおり、こうした「モノとしての資産」がマネーの逃避先となっています。さらには、金と同様に中央集権に依存しないビットコインなどのデジタル資産も、補完的な役割として一部のポートフォリオに組み込まれるようになってきました。
今後を展望すると、米ドルの国際通貨としての支配的地位がすぐに崩れるわけではありませんが、その信認には構造的な陰りが見え始めているのは事実です。米国の財政と外交の両面でのリスク、そして中銀の資産構成の変化がそれを物語っています。世界経済が多極化し、政治的な分断が深まるなかで、「どこの国にも依存しない資産」に注目が集まるのは自然な流れです。
これは一過性のトレンドではなく、グローバルなマネー構造の変革が進行していることを示す重要な兆候です。
ドル離れは今後加速していくでしょうが、円の価値も継続的に下落し、紙幣の価値が下がっているという点の理解を深め、紙幣から資産をシフトさせることが重要になります。
そしてドル離れが進むということは、アメリカ国債の買い手が継続的に減っていくということで、これは金利高の継続につながり、アメリカの財政はますます悪化するということです。
■ 金(ゴールド)への投資
金は有史以来、通貨の本源的価値を象徴する存在であり、現代の混乱した金融情勢においてその価値が再評価されています。特に各国中央銀行が金を買い増しているという事実は、通貨の信認に揺らぎがあることを裏付けています。
金への投資手段は主に以下の三つです。
ETF(上場投資信託):金価格に連動する金融商品で、売買が容易です。代表的なものに「GLD(SPDR Gold Shares)」や「IAU(iShares Gold Trust)」があります。
現物(金貨・地金):実物としての金を保有することで、国家や金融システムから完全に独立した資産保全が可能です。長期保有を前提にした戦略に適しています。
金鉱株や金鉱ETF:金価格の上昇によって収益が増加する金採掘企業への投資です。「GDX」や「GDXJ」などは金の価格変動に対して高いレバレッジを有します。
■ ビットコイン(Bitcoin)への投資
ビットコインは「デジタルゴールド」としての地位を確立しつつあります。中央銀行や政府の影響を受けない非中央集権型の通貨であり、その設計思想はまさに「ドルに対する代替手段」です。
主な投資方法は以下の通りです。
直接保有:暗号資産取引所を通じて購入し、ハードウェアウォレットに保管することで高い安全性を確保できます。
ETF経由:2024年からアメリカでは現物型ビットコインETFが承認されており、保守的な投資家でも金融商品として扱うことが可能となりました。BlackRockの「IBIT」やFidelityの「FBTC」などが代表例です。
長期保有(HODL)戦略:短期の価格変動ではなく、ドルやユーロの価値が長期的に目減りすることを見越し、ビットコインを一定割合保有する戦略が増えています。
■ 銀(シルバー)への投資
銀は金に比べて投資家の注目度は劣るものの、産業用途の需要が高いことから、供給逼迫リスクや脱炭素社会の実現に伴って価格上昇の余地が大きい資産です。太陽光パネルや電気自動車での需要増加も追い風となっています。
銀への投資方法も複数あります。
ETF:「SLV(iShares Silver Trust)」が代表的で、銀価格の上昇に連動する手軽な投資手段です。
現物保有:金と同様、銀貨や銀地金の形で保有することで、信用リスクのない資産としての性格を持ちます。
銀鉱株:より高いリターンを狙うなら、銀鉱企業への投資も検討対象になります。
■ その他の補完的投資:実物資産と外貨分散
● 不動産・農地などのリアルアセット
金やビットコインと並び、インフレに強い資産として注目されるのが不動産です。特に都市インフラに支えられた地域や、人口流入が続く新興国では安定した価値保全が期待できます。実際、タイ、ベトナム、ドバイなどでは、外国人投資家による不動産購入が急増しています。
● 外貨資産・インフレ連動債
米国のインフレ連動債(TIPS)は、物価上昇に応じて利子と元本が調整されるため、実質的な購買力を守る手段として機能します。また、スイスフランやシンガポールドルなど、健全な財政と金融政策を持つ国の通貨建て資産も有効です。
■ 総括
米ドルを基軸とする国際金融体制に揺らぎが生じている今、私たちが取るべき戦略は、通貨制度に依存しない普遍的価値を持つ資産へと分散することです。金・銀・ビットコインなどの無国籍資産、そして不動産やコモディティといった実物資産を組み合わせることで、通貨の希薄化・信用低下・地政学的リスクに備える多層的な防衛線を築くことが可能になります。
いまは、法定通貨に過度に依存した資産構成を再点検し、グローバルなマネーシフトの潮流に柔軟に対応する「実物重視のポートフォリオ再構築」のタイミングであるといえるでしょう。
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