米国著名投資家であり世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏は、2025年4月に行われたCNBCのインタビューにおいて、現在の世界経済と金融システムが直面している重大な危機について強い警鐘を鳴らしました。彼は、現在の状況は単なる景気後退ではなく、もっと根深く、複合的な危機であると述べています。
彼によれば、経済、政治、通貨、国際秩序という4つの「大きな力(Big Forces)」が同時に不安定化しており、これらの力が相互に影響しながら構造的な変化を引き起こしているといいます。特に、従来の景気サイクルと異なり、今回の危機は体制の根本的変革を伴う「パラダイム・シフト」であり、従来の政策手段では対応しきれない可能性があると警告しました。
その中でも特に深刻な問題として、彼は米国の債務問題に注目しています。ダリオ氏は、今後1~2年以内に米国の連邦債務は制御不能なレベルに達し、債務危機が現実のものとなる可能性が高いと語っています。米国政府は膨張し続ける財政赤字を埋めるために国債を発行し続けていますが、その国債を十分に吸収できる買い手が将来的に不足し、市場の需給が崩れることで金利の急騰や信用不安が引き起こされるリスクが高まっていると指摘しています。これは、いわゆる「債務ドミノ」とも呼べるものであり、政府の支出、借入コスト、民間経済のファイナンス全体に深刻な影響を及ぼす可能性があると強調しました。
さらに彼は、通貨秩序の崩壊にも言及しています。ドルは長年、国際金融秩序の基軸通貨としての役割を果たしてきましたが、近年のアメリカの外交政策や金融政策の変化、そして各国の対米不信の拡大により、脱ドル化の動きが各国中銀の間で強まっていると指摘しました。ダリオ氏は、制裁・関税の濫用、米国の財政・金融の持続性への疑問、そして国際的な信用の低下が重なり、ドルの購買力と国際的信認が今後一層揺らぐと見ています。
インタビューではトランプ前大統領の再登場と、その政治的影響についても懸念を表明しています。彼は、保護主義的かつ対立的な政治姿勢が再び経済政策に反映されることになれば、すでに分断された米国社会がさらに分裂し、国際社会との協調も困難になると述べました。とりわけ、トランプ政権下で繰り返された関税政策や敵対的な外交方針は、インフレを加速させ、国際秩序を不安定化させるものであると厳しく批判しています。
このような危機の時代において、投資家や市民がとるべき資産戦略についてもダリオ氏は具体的に言及しました。まず、信用リスクのない実物資産である「金(ゴールド)」は、通貨の信頼が揺らぐ局面で安全資産としての役割を果たすと述べています。また、近年注目を集めている「ビットコイン」などのデジタル資産についても、法定通貨の制度的リスクに対するヘッジ手段として有効であるとしています。価格の変動性や規制リスクには注意が必要ですが、通貨不安が高まる局面では「デジタル・ゴールド」としての側面が再評価されると語りました。
さらに彼は、従来の「60/40ポートフォリオ」(株式60%・債券40%)の有効性は低下しており、インフレ・金利上昇局面においては実物資産や外貨建て資産、新興国市場への分散が不可欠であると述べています。投資家は今後、リスク分散を徹底し、流動性リスクや制度リスクを視野に入れたポートフォリオ構築を行う必要があると警告しました。
最後に、ダリオ氏は「我々が歴史から何を学ぶか」が問われていると語りました。過去にも、国家の財政破綻、通貨の信用崩壊、政治的分断による混乱は幾度となく繰り返されてきましたが、現在の危機はそれらが一度に起きているという点で極めて特殊であると強調しました。そして、「このような時代に求められるのは、協調的で賢明なリーダーシップであり、政党を超えた国民的な合意形成が不可欠だ」と結びました。
こうした複雑な時代において、ダリオ氏は明確な資産運用方針を提示しており、それは「極度の分散」と「実物資産への着目」を軸としています。
彼が提唱する代表的な戦略が、「オール・ウェザー・ポートフォリオ(全天候型資産構成)」です。この戦略は、どんな経済環境においても資産が安定して成長することを目的としており、株式だけでなく長期国債や中期国債、金、商品などを組み合わせることで、市場の変動やインフレ、デフレといったさまざまな経済局面に対応できる設計となっています。たとえば、米国の長期国債を40%、中期国債を15%、株式を30%、金と商品をそれぞれ7.5%ずつ保有することで、バランスの取れたポートフォリオを実現できます。
加えて、彼は「通貨価値の毀損」に備えるため、金やビットコインといった「実物的な資産」への投資も推奨しています。金は国際的に信用力の高い無国籍資産であり、各国の中央銀行も保有を増やしています。また、ビットコインは法定通貨に依存しない「デジタル・ゴールド」として、特に若年層や新興国の投資家から注目されており、今後の通貨制度不安へのヘッジ手段となり得ます。ただし、ビットコインについては価格の変動が大きいため、あくまでポートフォリオの一部として適切に管理することが重要です。
さらに、ダリオ氏は地域・通貨の分散も不可欠であると述べています。米ドルに過度に依存するリスクを避けるため、スイスフラン(CHF)やシンガポールドル(SGD)、あるいはユーロなど、信認性の高い他通貨建ての資産を持つことが望まれます。また、先進国だけでなく、インドや東南アジア、ブラジルといった新興国市場にも視野を広げることで、将来的な成長機会を確保することができます。
インフレリスクへの備えとしては、金や商品に加えて、米国の物価連動国債(TIPS)や農業・エネルギー関連のETFなども有効です。近年では、実物資産としての不動産や、インフラファンド、さらにはインフレ耐性のある配当株なども注目されています。
一方で、有事の備えとして、常に一定の現金ポジションを確保しておくことも推奨されています。たとえば、投資資産の10〜20%程度を現金として保有することで、予期せぬ市場の急落時に追加投資を行える柔軟性が確保されます。また、インバースETFやボラティリティ指数(VIX)連動型の資産を一部組み込むことで、下落時のリスクヘッジも可能となります。
ダリオ氏のアドバイスを実践するにあたっては、「どのような事態が起きても資産を守れる状態を構築すること」が最大の目的です。従来の常識にとらわれず、相関性の低い資産を多層的に保有し、通貨や政治のリスクに柔軟に対応できるポートフォリオを構築することで、経済的混乱の中でも持続的な資産形成が可能となるのです。
このように、レイ・ダリオ氏の投資戦略は、現代の不安定な世界において、個人投資家にとっても大いに参考になる具体的かつ現実的なアプローチです。今後の経済環境がどのような方向に進もうとも、そのリスクに対して備えることで、私たちはより安心して資産を守り、増やすことができるでしょう。
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