
項目内容発行元みずほ銀行 国際為替部発行日2026年2月2日タイトル高市演説を受けて~危うい現状認識~著者唐鎌大輔(チーフマーケット・エコノミスト)原文URLhttps://www.mizuhobank.co.jp/forex/pdf/market_analysis/econ2600202.pdf
2026年1月31日から2月1日にかけて、高市早苗首相が衆院選の応援演説で行った発言が市場で大きな注目を集めた 。特に問題視されたのは以下の発言である:
「今円安だから悪いって言われるけれども、輸出産業にとっては大チャンス。食べ物を売るにも、自動車産業も、アメリカの関税があったけれども、円安がバッファーになった。ものすごくこれは助かりました。円安でもっと助かってるのが、外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ホクホク状態です。」
この発言は「円安容認」と受け止められ、市場に波紋を広げた。
レポートは、高市首相の「円安が関税バッファーとして機能している」という主張自体は事実に基づいていると認めている。
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2025年内閣府調査によれば、輸送用機器産業の採算レートは約125円
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15%の関税を加算すると144円となり、154円近傍の現状と比較して約10円のバッファーが存在
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ただし、選挙期間中に円安で生活が苦しくなる一般市民にこの主張がどう受け止められるかは別問題
レポートは、高市首相の「円安になると国内投資が戻ってくる」という認識を「前時代的な発想」と厳しく批判している。
批判の根拠:
1.
アベノミクス以降の実証データ
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2013年以降、日本企業の対外直接投資ブームは円安と共に進行
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本来、円安は海外投資のコストを引き上げる「逆風」であるはずだが、企業は海外投資を加速させた
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つまり「円安→国内投資回帰」という単純な図式は成立しない
2.
企業の投資判断要因
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為替だけでなく、人口減少、税制、雇用規制なども勘案される
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企業の本音:「では、もう2度と円高にしないと約束してくれるのか」
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約束できない以上、多くの企業は国内回帰を進めない
3.
対外直接投資収益の再投資傾向
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日本企業は対外直接投資から得た収益を外貨のまま現地に再投資する傾向を強めている
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この事実は国際収支統計で明確に確認されている
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2024年3~7月の財務省有識者懇談会「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」でも争点となった
レポートは、高市首相の外為特会に関する「ホクホク」発言に対し、根本的な誤解があると指摘している。
外為特会の本来の目的:
「通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産」(日本銀行HPより)
レポートの主張:
1.
「弾薬」としての性質
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外為特会は通貨防衛の際、投機筋と戦うための有限な原資
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「弾薬」と形容されるのは、その有限性と戦略的重要性ゆえ
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目的外利用は禁忌
2.
円換算の含み益は意味がない
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通貨防衛では円買い・ドル売りを行うため、「ドル換算でいくら保有しているか」が重要
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「円換算で見れば大きい」という話は本質を外している
3.
危機的状況への認識不足
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今後の値幅とスピード次第では、保有資産の大規模売却を強いられる可能性
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弾薬の残量が可視化された状態での戦いは不利
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戦いが始まる前に弾薬を浪費する軍隊が勝てるはずがない
4.
適切な発言とは
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首相として言及するなら「我が国の外貨準備は極めて潤沢であり、投機的な円売りにも十分対処できる」とだけ言えば十分
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投機筋に対しては余計な情報を与えず、果断な行動で不意打ちを食らわせることが効果的
1.
高市発言が「円安容認」だったかどうかは本質的な問題ではない
2.
より深刻な問題は以下の2点:
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「為替が修正されれば、日本企業の行動変容が劇的に期待できる」という前時代的な価値観が政権内に温存されている可能性
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外為特会が有事の際に温存されておくべき弾薬として正しく理解されているかどうかへの懸念
3.
米国の為替政策報告書でも認識されている事実が、高市政権内で共有されていないとすれば極めて残念
このレポートは発表後、以下のような反響を呼んだ:
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立憲民主党の塩村文夏参院議員がXで紹介し「みずほ銀行も警鐘を鳴らしている」と言及
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日刊スポーツなど複数メディアが「異例のレポート」として報道
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ロイターは「再び円安警戒モード」として、政府関係者にとっても想定外の発言だったと報道
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選挙期間中に民間銀行のエコノミストが首相発言を批判するという異例の事態として注目
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
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みずほ銀行 国際為替部 チーフマーケット・エコノミスト
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日本の為替・国際金融分野で著名なエコノミスト
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定期的に「みずほマーケット・トピック」を執筆
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