財政危機

【 リーマンショック前後よりも今の方が圧倒的に金融市場崩壊リスクが高い理由 】

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2008年に発生したリーマン・ショックは、サブプライム住宅ローンを中心とした証券化商品の崩壊をきっかけに、世界的な金融危機を引き起こしました。そして2025年の現在、あのときとまったく同じではないものの、構造的にはよく似た危機の兆候がいくつも広がっています。


共通するのは「過剰債務」「金融商品の不透明化」「資産価格の過熱と反転」「信用収縮」「金融政策の限界」といった複合的なリスクです。ただし、当時は証券化された住宅ローン(MBSやCDO)を中心とする金融商品の崩壊だったのに対し、現在はもっと多層的かつ地理的に広がりをもつ危機構造となっています。


① 国家債務の危機が金融の根幹を揺らしている


まず現在、世界の政府債務がかつてないレベルにまで膨張しています。アメリカの連邦政府債務は2025年時点でGDP比130%を超えており、議会予算局(CBO)は2055年には156%に達すると予測しています。日本はすでにGDP比260%にのぼり、主要国で最も深刻な水準です。欧州諸国も、コロナ対応とエネルギー支援、ウクライナ戦争関連支出の影響で赤字が慢性化しています。


問題は、こうした巨額の債務をファイナンスするために、各国が中央銀行の金融緩和に長年依存してきたことです。しかし2022年以降、世界は高インフレの時代に突入し、中央銀行は量的緩和を縮小し、金利を引き上げざるを得なくなりました。その結果、国債の利払い負担が急増し、財政をさらに圧迫しています。


アメリカ国債は世界で最も安全とされてきましたが、現在はCDS(信用リスクを示す保険料)スプレッドがイタリア国債(BBB+)とほぼ同水準で取引されており、すでに「準ジャンク債」として見なされ始めています。このまま国債市場の信頼が失われれば、グローバルな信用システムそのものが揺らぎかねません。


② 商業不動産市場の崩壊と金融システムへの波及


次に大きな火種となっているのが、アメリカを中心とする商業用不動産市場の悪化です。特にオフィスビルは、リモートワークの定着や都市離れの影響で、賃貸需要が激減しています。これにより不動産価格は下落し、CMBS(商業用モーゲージ担保証券)の不良化が急速に進んでいます。


2025年時点で、アメリカのCMBSの延滞率は10.6%に達しており、これはリーマン・ショック時とほぼ同じ水準です。さらにこの市場の多くは、リスクを再証券化して世界中の金融機関や投資家に販売されているため、ひとたび信認が崩れるとグローバルな信用収縮が起きる可能性があります。


特に中小地方銀行は、商業不動産ローンに大きく依存しているところも多く、資産価値の毀損が進めば自己資本が棄損され、取り付け騒ぎや経営破綻を招くおそれもあります。すでに一部の地方銀行では、再編や経営統合の話が浮上しており、市場には警戒感が高まっています。


③ 住宅市場の調整も進行中


米国の住宅市場もまた、下り坂に差し掛かっています。2025年4月時点で、全米の6割以上の地域で住宅価格が前年同月比で下落しており、上昇トレンドが明確に反転し始めています。高金利により住宅ローンの負担が増えたことで、実需層の購買力が大きく削がれており、今後も弱含みの状態が続く見通しです。


一方、中国では住宅バブルがさらに深刻な形で崩壊しています。地方政府が不動産を財源として依存していた構造のもとで、開発ラッシュが加熱し、完成しないまま放置された建物(鬼城)が大量に出現しています。不動産開発会社の債務不履行も頻発しており、既にエバーグランデや碧桂園といった大手企業が再編を余儀なくされています。


この状況は地方政府の財政にも波及し、公共サービスの維持すら困難な地域が出てきています。


④ プライベートクレジットの影と“見えないリスク”


現在、もうひとつ深刻化しているのが「プライベートクレジット(非上場の民間融資市場)」の膨張です。これはリーマン・ショック後に銀行の規制が強化されたことで、融資の一部がPEファンドや私募ファンドにシフトした結果です。


この分野は規制が緩く、情報開示も乏しいため、格付けの信頼性も低く、リスクの所在が見えにくくなっています。しかも、担保価値が実態よりも高く評価されていたり、貸し手が実質的に同一グループ内に集中していたりと、モラルハザード的な問題が多数指摘されています。


もしこの市場で債務不履行が連鎖すれば、表面上は見えていなかったリスクが一気に顕在化し、新たな信用危機の引き金となる可能性があります。これは2008年のCDO問題と構造的に非常に似ており、いわば“新型の影のバブル”です。


⑤ 金融政策はすでに限界


かつてのリーマン・ショックでは、各国の中央銀行が緊急利下げと量的緩和によって危機対応に成功しました。しかし現在、政策金利はすでに上昇しており、インフレも根強いため、そう簡単に金利を下げたり、資産購入を再開したりすることは難しい状況です。


財政支出についても同様です。巨額の国債残高を抱える中で、追加的な財政出動を行えば、かえって市場の信頼を失うおそれがあります。つまり、政策当局の手段が非常に限られているということです。これは2008年との決定的な違いであり、リスクに対する「対応力の脆弱化」を意味します。


⑥今後懸念される展開:静かなる信用危機の連鎖


以上のような背景を踏まえると、今後は以下のようなシナリオが懸念されます。


1)米国債の格下げや流動性低下により、世界の資本市場が動揺。長期金利が急上昇し、他の国の国債まで連鎖的に売られるリスク。


2)商業不動産証券やCLOの延滞拡大により、資産価格の信認が崩れ、信用供給がストップ。金融機関の自己資本が棄損。


3)地方銀行や保険会社など、リスク資産を多く抱えた金融機関が連鎖的に信用不安に陥る。預金の引き出しや株価の急落も起きる可能性。


4)株式・債券・不動産など、ほぼすべての資産が同時に売られる“同時安相場”の発生。


5)資本の安全な逃避先が乏しくなり、金やビットコインなどの非伝統資産に資金が逃避する現象の加速。


結論:今の世界は「静かな信用危機」の序章に立っている


現在の世界経済は、リーマン当時のように一発で爆発する危機ではなく、複数の分野でじわじわと信用が崩れていく「静かな信用危機」に近い状況です。リーマン時代はCDOやMBSという特定商品のリスクが主因でしたが、今は国家財政・不動産・非公開融資・地銀・格付けといった多方面に火種が拡散しています。


一つひとつは耐えられるレベルでも、それらが同時に動き出したとき、金融システム全体がバランスを崩す可能性は決して小さくありません。だからこそ今は、マクロ経済の指標だけでなく、信用供給の背後にある構造変化を慎重に見ていく必要があります。



特に①がギリギリの状況にあり、金利上昇では①②③④⑤⑥で全てが連鎖して大崩れになる可能性は高いのです。ではこのリスクにどのように備えれば良いのか?


具体的にひとつずつ詳細を深掘りし解決策、備える方法、リスクをヘッジする投資方法を別途説明していきます。

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