財政危機

【 アメリカの対外資産減少と外国人の売却がもたらすリスク構造の変化 】

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アメリカはこれまで、世界の資本を集める拠点として君臨してきました。ドルは国際金融の中心にあり、アメリカの国債や株式、不動産は「安全資産」として多くの外国人に買われてきました。しかし今、この構造が大きく変わろうとしています。対外純資産は悪化を続け、外国人がアメリカ資産を売り始めているのが現実です。


アメリカの対外純資産(NIIP)は2024年末時点でマイナス26兆ドルに達しました。これは、海外から集めた資金が、アメリカが保有する対外資産を大きく上回っていることを意味しています。背景には、アメリカの恒常的な貿易赤字や、国内貯蓄不足を補う形での海外からの資金流入があります。つまり、アメリカは自分の経済を支えるために、外国からお金を借り続けてきたということです。


ただ、その借金構造にひずみが生じてきました。特に大きな転機となったのが、2022年のウクライナ戦争とそれに対するアメリカの経済制裁です。アメリカ政府はロシアの外貨準備を凍結し、ドルを経済制裁の手段として使いました。これは「ドルの武器化」と呼ばれ、世界に強烈な印象を与えました。要するに、アメリカにとって不都合な国の資産は、いつでも差し押さえることができるというメッセージが広まったのです。


この行動を見た多くの国々、特に中東やBRICSといった新興国は、ドルへの依存にリスクを感じ始めました。サウジアラビアは中国との石油取引で人民元建てを容認し始め、中国とロシアは貿易の一部をドル以外の通貨で決済しています。インドも同様に、ロシアとのエネルギー取引でルピーを使うケースが増えました。こうした動きは「脱ドル化」の一環であり、徐々に広がっています。


資産保有の面でも変化が起きています。中国は以前1.3兆ドル以上あったアメリカ国債の保有額を、2024年には7000億ドル台にまで減らしました。日本や中東諸国も、保有していたアメリカ資産の一部を売却する動きを見せています。つまり、「買われるアメリカ」から「売られるアメリカ」へと移りつつあるということです。


この流れが続けば、アメリカ経済にはさまざまなリスクがのしかかってきます。金融市場への影響を細かく分析してみると?


① まず、国債の買い手が減れば、金利が上がります。今のように財政赤字が膨らんでいる状況で金利が上がれば、利払いの負担が一段と重くなります。既に利払いのために借金を積み上げる自転車操業がさらに悪化します。


② 次に、株や不動産も外国人が売り始めれば価格は下がりますし、金融市場の不安定さも増してきます。米国株が下落すれば、日本株も下落、さらにはオルカン保有の新NISA投資家の消費意欲は低下し、日本経済を悪化させます。


③ さらに、外国人がドル資産を売れば、当然ドルも売られます。その結果、ドル安が進み、輸入物価が上がってインフレ要因になります。金利・為替・物価・資産価格が同時に揺れるような状況になれば、経済全体の安定性にも影響が出るでしょう。


これまでアメリカは、「資金を預けておけば安心な国」でしたが、その前提が崩れ始めています。アメリカの資産を持つこと自体にリスクがあると見られれば、資金は他国や他の資産、金、銀、BTCへと流れていきます。


こうした逆流の動きはまだ始まったばかりですが、放置すればじわじわとアメリカの金融的な立場を弱らせていくことになります。もしこの流れが急加速すれば、ドルの信認や基軸通貨としての地位にも影響を及ぼしかねません。


いまアメリカ経済は、見えにくいかたちで新たなリスクを抱えています。数字上の成長が続いているように見えても、その裏では「売られる国」への変化が始まっているという現実を、しっかり認識しておく必要があります。


レイダリオ氏が昨年から言い続けているように、アメリカの基軸通貨国家、ドルの基軸通貨が明確に弱体化し始めています。金融市場は非常にボラティリティが高い状態ですので要注意です。



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