
ノーベル経済学者ポール・クルーグマンは、2026年2月の論考「Is This Crypto’s Fimbulwinter?」において、今回の暗号資産下落が従来の循環的調整とは質的に異なる可能性を指摘しました。彼の立場は断定ではなく、「確実ではないが、今回は違うかもしれない」という警告型の分析です。
クルーグマンの基本認識は一貫しています。すなわち、暗号資産は株式や不動産のように明確なキャッシュフローや利用価値から価格を説明できず、価格の大部分が投資家心理(彼の言葉では“vibes”)に依存しているという前提です。この前提に立つと、信認構造に変化が起きた場合、回復力も大きく変わり得る、というのが彼の問題意識です。
そのうえで彼は、「今回の下落が“フィンブルの冬”になり得る理由」として主に三つの構造変化を挙げています。
過去の暗号資産市場では、価格急落時の重要な下支えは、いわゆる強固な長期保有者(HODL層)でした。彼らは価格下落局面でも売却せず、むしろ買い増すことで市場に粘着的な需要を提供してきました。
しかしクルーグマンは、近年の市場では構造が変わりつつあると見ています。具体的には、
の存在感が増している点です。
彼の懸念はここにあります。
ビットコインそのものへの“信仰”と、これら企業の株式への投資判断は本質的に異なる可能性が高い。もし価格が下落し、企業側の資金調達環境が悪化すれば、これらの主体は信念ではなく資本制約で売却を迫られる可能性があります。
つまり、市場の需要構造が信仰ベースの粘着需要 → 金融工学ベースの循環需要
へ移行しているなら、下落局面の耐久力は過去より弱くなる、というのが彼の第一の警告です。
ビットコインの長期強気論の中核には、「デジタル・ゴールド」という位置づけがあります。すなわち、国家通貨や金融不安に対するヘッジ資産としての役割です。
クルーグマンは、このテーゼが直近の市場行動によって弱体化していると指摘します。地政学的不確実性や市場不安が高まった局面で、投資家が逃避先として選んだのは依然として実物の金であり、ビットコインはむしろリスク資産的な値動きを示した、という観察です。
もし危機時に安全資産として買われないのであれば、ビットコインの高い評価を支える理論的支柱の一つが揺らぐことになります。これが彼の第二の懸念です。
クルーグマンが最も重視しているのがこの点です。暗号資産は本来、国家や政治から独立したリバタリアン的資産として語られてきました。しかし彼の見立てでは、近年の暗号資産市場はむしろ政治的期待と強く結びつく資産へと変質しています。
具体的には、
といった動きです。
この構造の問題点は明確です。政治が追い風の局面では価格が押し上げられる一方、政策実現への疑念や政治環境の変化が起きた場合、期待の巻き戻しが長期化する可能性があります。彼は、直近の下落にはこうした「トランプ・トレード的期待の剥落」要因も含まれていると示唆しています。
もっとも重要なのは、クルーグマン自身は断定していない点です。彼は、
とも明言しています。
つまり彼の論考は、
「仮想通貨は終わる」
という予言ではなく、
「今回は単なる循環的冬ではない可能性がある。構造変化に注意せよ」
というリスク警告型の分析です。
クルーグマンの“フィンブルの冬”論は、要するに次の三つの観測点に集約できます。
これらが悪化し続けるなら、彼の懸念は現実味を帯びます。逆に言えば、
なら、この“フィンブルの冬”仮説は外れることになります。
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